競走馬の牡馬には、素晴らしい成績を残すと引退後に同じ血統で子供を残すという大事な仕事があります。
現役時代の活躍や血統背景に応じて種付け料金が設定され、産駒の評判が良いとアップし、あまり評判が良くないと金額もさがります。
そんな競走馬の牡馬の種付けについて今回は、詳しく紹介します。
そもそも競走馬の種付けとは?
生産牧場にいる種牡馬と繁殖牝馬を交尾させて、繁殖牝馬に受胎させ、将来の競走馬を誕生させることを「種付け」といいます。
種牡馬と繁殖牝馬の血統の相性が良いのかどうか、ということだけではなく、種牡馬の種付け料のバランスなどを考えて、どのような種牡馬と繁殖牝馬を掛け合わせるのかを決定します。
種付け料の最高額は数多くの名馬を輩出しているディープインパクトです。
まさかの料金ですが、一回の種付けにかかる費用は4,000万円です。
また、キングカメハメハが1,000万円、ハーツクライが800万円、となっているほか、2017年に産駒がデビューしたオルフェーヴルは600万円となっています。
牡馬の種付けは受胎率は70%
種付けは、繁殖牝馬(肌馬)が発情を繰り返す春〜夏に集中して行われます。
繁殖牝馬の発情時期が春から初夏となるため、4月と5月に種付け時期が集中します。
繁殖牝馬は春シーズンに1度目の発情期を迎え、そこから3週間後に2度目の発情期を迎えます。
それぞれの繁殖牝馬の発情期のサイクルを考えながら、種付けする日時を決めていきます。
種付けが終わると、繁殖牝馬が受胎したのかどうかを見極める作業に入り、約1ヶ月で受胎の有無が判明します。
無事に受胎されていた場合は出産に向けた作業に入るのですが、受胎しなかった場合はもう1度別の種牡馬と受胎させるのか、それとも種付けを来年に持ち越しにするのかを決めます。
繁殖牝馬の一般的な受胎率は70%です。
30%は不受胎となってしまうので、種付け料はシーズンが終了してから、受胎が確認されたものに支払いされます。
当て馬
「当て馬」とは、馬の種付けの際に牝馬の発情を促し確認する行為や、当該行為のためにあてがわれる牡馬自体を指す通称です。
馬産の用語としては「試情馬」と言います。
サラブレッドの生産牧場には、一般的に、現役を引退した牡馬が当て馬専用に飼育されています。
種牡馬場などにおける種付け前の当て馬としては、人気のない種牡馬・引退した種牡馬などのうち気性の温和な馬を使用します。
当て馬により牝馬の発情を確認する際は、「エプロン」と呼ばれる腰当てが当て馬に装着されたり、壁越しに当て馬を近づけるなどされ、実際に交配が行われないように配慮されます。
牝馬の発情の有無が確認されると当て馬は牝馬から引き離されます。
しかし、性欲が高まった状態で引き離されることによる当て馬のストレスを解消するために、種付けを行うことも稀にあります。
また数少ないケースではありますが、種牡馬としての登録が継続されていれば、代用種牡馬としての役を果たすこともあります。
競走馬の種付け時間は30秒
「馬並み」と言われるとどうしても物凄い想像をしてしまいそうになりますが、なんと種付けはたったの30秒で終了します。
しかし種付けは危険も伴うため、見守っている人達からしたら1秒でも早く終わってほしいと思っているので、短いのは生産者にとって良いことにもなります。
種付け回数は、2〜3ヶ月に200回以上
引退してから種付け馬になった牡馬は、凄い数の種付けを行います。
種付けは種付けシーズンと呼ばれる2〜3ヶ月の間に行われますが、その期間で多い馬の場合、200頭もの牝馬との種付けが行われるのです。
競馬界でも血統が人気の馬は人気にが高まります。
最強のディープインパクトの種付け料は4000万円
昨年に他界してしまった最強の三冠馬でもあるディープインパクトですが、この馬の種付け料金は、一回4000万円という金額でした。
ディープインパクトは、日本競馬史上2頭目の無敗の3冠馬となり、JRA最多タイのG1・7勝を記録した英雄は父となっても、数々の活躍馬を送り出しました。
その結果、種牡馬としての価値が年々上昇し、それに伴い種付け料もアップしていました。
そのため過去で、世界で最も高額な4000万円設定されていると言われています。
現役時代に成績が良い馬が優秀な種牡馬とは限らない!
競馬の血統で面白いのが、ディープインパクトのように、現役時代と同じように種牡馬として活躍する馬ばかりでない部分かもしれません。
同じように無敗で3冠を制したシンボルルドルフはトウカイテイオーというG1・4勝馬を出したもののG1優勝の産駒はその1頭だけです。
ディープと同じくJRAのG1・7勝を挙げたテイエムオペラオー産駒からは、G1馬どころか、平地重賞勝ち馬も出ていません。
一方で、現役時代にG1勝ちがなかったディープインパクトの兄ブラックタイドはG1・7勝で数々の記録を更新したキタサンブラックを出し、同じくG1・1勝だったステイゴールドからはオルフェーヴルやゴールドシップ、スクリーンヒーローからはモーリスという怪物級の馬が誕生しています。
現役時代の成績が直結しない所が生産の難しさであり奥の深さでしょう。
競走馬は自然交配のみで人工授精をしない
サラブレッドの血統登録の1つ条件として自然交配で誕生した馬というのがあります。
そのため、競走馬の馬産において、人工授精は実施されていません。
人工授精が行われない理由の1つとしては、種牡馬の体力や肉体面の負担がないため、ある種牡馬に人気が集まりすぎて血統が偏る可能性があるからと言われています。
自然交配だからこその偶然から名馬が生まれることがあるのも馬産の魅力なのです。
90年代後半に一世を風靡した快速馬サイレンススズカは、もともと違う種牡馬を交配する予定だったと言われています。
しかし、母が発情した日に、予定していた種牡馬が埋まっていたため代わりにサンデーサイレンスを付けたことで記憶に残る名馬が誕生しました。
受胎しなかった場合のリスク
競走馬の交配では受胎しない可能性は30%も存在します。
牝馬が発情し、無事に種付けができたとしても受胎しないケースも当然あります。
その時にはもう1度、同じ種牡馬と交配する別の種牡馬と交配するという2つの選択肢になってきます。
種牡馬によって、不受胎の時の金銭的な条件が異なりますので、その条件と牝馬の体調とを考えて選択していくことになります。
しかし、4000万円の予算を掛けて、ディープインパクトに種付けしてもらっても受胎しない可能性を考えると、やはり生産は難しいですね。
まとめ
今回は競走馬の種付けについての情報をご紹介しました。
現役時代と違って、種牡馬の仕事ぶりについては断片的にしか取り上げられる機会がないため新鮮に思われた方も多いのではないでしょうか。
20年ほど前までは、人気種牡馬でも100頭強の種付け回数でしたが、畜産技術の向上もあって、現在は200頭以上に種付けする馬も少なくありません。
そのため、ひっそりと種牡馬入りした馬にはチャンスが少なくなっています。
しかし、1頭の産駒が活躍しただけで評価が激変する可能性もあるのが種牡馬です。
馬の配合はとても難しく、血統が素晴らしいのに結果はついて来ないなどのドラマがあります。
今後も素晴らしいサラブレッドが日本に誕生する事を願いたいですね。